注目企業・特集2024年4月号掲載
エコファクトリーの無動力雨水処理システム
~雨水の有効利用でBCP対策、純水利用で節電メリット~
- 電気不要で雨水を純水に変えてしまうecowinウォーターの衝撃
- エコファクトリー(熊本県熊本市中央区水前寺2丁目17-7)
災害大国・日本。あの東日本大震災から13年、2016年の熊本地震、2018年の北海道胆振東部地震ののち、今度は能登半島が巨大地震に見舞われた。自然の力がもたらす被害は甚大だが、同時に震災以降の長い避難生活は、13年前と変わらない過酷な状況となっている。なかでも今回の能登半島地震で未だ完全復旧に至らない水道インフラの現実は、この国の防災のあり方に大きな課題を突き付けている。そんななか電気不要で、雨水を純水に変えられる新開発の装置が注目を集めている。エコファクトリー(熊本市中央区)が、昨秋発売した無動力雨水処理システム「ecowinウォーター」だ。
常識を覆す電気不要、60万円の低価格
①ecowinウォーターは縦樋から集水した雨水を無動力で純水へと変換し、様々な用途へ活用できる雨水純水を得ることができる雨水は自然が作り出す蒸留水。本来は汚れのない水である。ところが降ってくる途中で、大気中に浮遊する塵や埃を取り込んでしまうために汚れる。そのため水道水と同じように飲んだり、シャワーを浴びたりすることは難しい。雨水を飲料や生活用水として使えるようにするシステムも存在するが、いずれも高額で容易に設置できるものはほぼ皆無。これに対し「ecowinウォーター」は、わずか60万円で、しかも電気不要で、雨水を純水に変えてしまうという、従来の常識を覆す新開発の装置システムである。
②無動力で運用できる点が防災的な観点から評価され、「防災・減災×サステナブル大賞奨励賞」を受賞(中央:エコファクトリー代表取締役社長村上尊由氏)もともとエコファクトリーは、省エネやCO2排出削減に貢献する無動力の製品を開発してきた96年創業のエコ推進企業。多くの体育館や工場で実績のある輻射式冷暖房装置「ecowin」を軸に、輻射式冷暖房と対流式高性能エアコンを融合させた「ecowinハイブリッド」など、数多くの新製品を世に送り出し、「省エネ大賞」、「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」をはじめ、地球環境に優しい製品技術で数々の受賞歴を持つ。そして今回、雨水を無動力で純水に変換し多様な用途へ活用できる「ecowinウォーター」で「防災・減災×サステナブル大賞2024」(主催:一般社団法人減災サステナブル技術協会)の奨励賞を受賞。省エネだけでなく、社会全般の雨水利用を促せる画期的な製品開発を成し遂げた。また、(一社)防災安全協会が実施している「防災製品等推奨品」についても認証を取得し、防災上有効としても第三者評価を得ている。
仕組みは至ってシンプル。①雨樋から採取した雨水を初期雨水分離槽で処理し綺麗な雨水を貯留分離槽に送水、②貯留分離槽で綺麗な雨水をさらに濾過・分離、③目の細かさ0.5μm(0.0005mm)の精密フィルターを採用した精密濾過槽で微細な不純物を取り除き純水を造水―という流れで、造水した純水を500ℓのタンク内に貯蔵される。タンクはいくつでも連結増設できるので、BCP対策として大規模な貯留も可能だ。
重力と遠心分離の利用で製品化を着想
特長の一つである無動力は、装置を縦長形状にして重力を利用したのがミソで、雨が降るたびに槽内には渦巻流による遠心分離現象を発生させ不純物を遠心分離し、フィルターの目詰まりを抑制しながら軽い不純物は上昇、重い不純物は下降する。この自然の原理を用いて不純物を効率的に分離排出できるようにした。金型を使わず、汎用部材で設計製作することで低価格を実現したことも大きい。
同システムの開発者で、エコファクトリー会長でもある村上尊宣氏は、「洗車が趣味で手軽に純水洗車ができないかと考えたのが始まり。水道水より遥かにきれいな雨水処理を前提に、重力と遠心分離を利用すれば、電気不要で行けるかもと閃いた」という。村上会長は、浄化槽設備士、浄化槽管理士の国家資格を保有しており、水処理技術を応用した独自技術を具現化すべく、国内大手フィルターメーカー2社の協力を得て独自開発を進めた。2023年7月にプロトタイプを完成し、8月1日(水の日)に合わせて国際特許出願を経て、11月1日に事業化をスタートした。第三者機関による水質分析評価では、水道法に基づく各種項目の水質基準値を下回り、水道水よりも鉱物イオンなどの不純物が少ないことが証明されたほか、純水の定義とされる電気伝導率1.0mS/m以下を満たす同0.5mS/mを達成。正真正銘の純水が無動力で造れることを示した。
BCP対策や幅広い純水用途に多くの関心
③グリーンインフラ産業展2024出展ブース。実機と内部構造の見えるデモ機等が展示され、雨水利用の促進に多くの関心を呼び寄せたカルキ成分を含む水道水と異なり、純水の用途は幅広い。例えば、空調設備の室外機冷却。室外機を水道水で冷却すると、水道水に含まれるシリカ結晶が熱交換器のフィンに堆積し、熱交換効率が下がるという課題があったが、当然純水であればシリカの付着はない。「純水を室外機へ噴霧して冷却することで約10%の節電効果がある」(村上会長)と言う。
すでに福岡県の自治体が、空調冷却用途を視野に入れ、貯蔵タンク6個の「ecowin ウォーター」システムの採用を決めたほか、熊本県西原村と連携し断水状態にある能登地域への設置も詰めている。さらに防災対策住宅を手がけるハウメーカーや純水を扱う試薬メーカー、メガソーラー純水洗浄事業者、海外水道インフラを推進しているJICA(国際協力機構)PJ 調査企業、バングラデシュの水インフラコンサル会社など、国内外の自治体や企業、団体からの問い合わせが相次いでおり、村上会長は「BCP対策とともに純水利用に対する高い関心がうかがえる」と説明。現在、全国展開に向け、販売代理店網の構築を進めている。震災大国の日本の水インフラをどう守っていくのか。今後、雨水利用の可能性を広げる同社の取り組みが一段とクローズアップされるかもしれない。